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館長だより

ミモザのリース(館長だより⑥)『Hちゃんとお母さん』2018.11

『Hちゃんとお母さん』

   小学4年生くらいの頃だったでしょうか。Hちゃんという女の子が転入してきました。日に焼けた顔はいつも笑っていて、への字に細くなった目と白い歯が印象的でした。
   授業を一緒に受けると、彼女はあまり勉強が得意でないことがすぐに分かりました。先生に当てられても、ニコニコ笑って立ったままです。
   ある日、私が家の近くの大学の校庭で遊んでいると、少し離れたところで工事があっていました。当時は経済成長まっただ中の時代。工事の槌音がそこかしこで聞こえていました。その工事現場に一人、子どもがいます。不思議に思って近づくと、Hちゃんでした。
  「何してるの? 一緒に遊ぼう」と声をかけると、いつもの笑顔で首を振ります。「お母さんと一緒がいい」。Hちゃんのお母さんがそこで働いていたのです。私は小学生の不躾さでいろいろ彼女に聞きました。そして、彼女が母一人子一人の家庭であること。この工事が終わるとお母さんはまた次の現場に移るため、すぐに転校すること。これまでもずっとそうだったこと、などを知りました。
   気づけば、いつの間にか彼女は転校しており、私の記憶からも消えていました。
   それから長い時間が経ちました。大人になった私は時折、あの時の彼女の姿が鮮明に思い出されるようになりました。時代とともに母親の職種は変わっても「Hちゃんとお母さん」が多い現実を知るようになったからでしょうか。

はあもにい館長 坂本ミオ